にゃんず
朝、まだ家の空気が夜の名残を抱 えているころ、 決まって私の寝室 のドアの向こうに、おはぎがいる。 こちらが気配を立てるのを、じっ と待っているのである。 ドアを開 けた瞬間、「にゃお」とひと言。 これは挨拶ではない。 明確な要求である。 「ごはんをくれ」。実に簡潔で、まことに正しい 。 そして彼は、こちらがまだ寝ぼけ眼であることなどお構いなしに、 さっさと階段を先に降りていく。 振 り返りもしない。 まるで忠実な家来を従えた殿様のような足取りである。 給仕係がついて来るのは当然、という顔をしている。 一方、きび――こちらは雌のきじ猫である――は少し違う。 愛想がないわけではないが、媚びることを知らぬ。 高いところから世の成り行きを眺めて、 「まあ、あなたたち、朝からご苦労さま」 とでも思っていそうな顔をしている。 人に寄りかかって生きているくせに、 その気配を微塵も見せぬのが猫という生きものの 不思議である。 写真の二匹は、実は逆転している。 上段に陣取るきびは、天下を取ったような顔をし、 下でふっくらと構えるおはぎは、 どこか人のいい家臣の風情を漂わせている。 たまにはこんな状況もあるものだ。 歳を重ねると、人間関係は少しずつ面倒になるが、 猫との関係はじつに明快だ。 腹が減れば鳴く。気が向けば寄ってくる。嫌なら去る。 それでいて、朝、ドアの前で待っていてくれる者がいるというのは、 なかなか悪くない人生である。