柔道女子52キロ 一瞬の隙

阿部詩が号泣した。 オリンピック 会場に響き渡るような絶叫である。 悔しさがどうしようもなく身体全 体が震えていた。 ほんの一瞬、そ れまで技ありで有利に進んでいて、 このままで勝てた試合の流れがほ んの一瞬で変わった。 ウズベキス タンのケルディヨロワは 世界ランク1位であり決して油断してはいけない選手である。 3分経過した直後、組み合ってあれっと思った瞬間、 阿部詩の身体が1回転して背中が床に付いた。 えっどうしてと言う表情をして彼女は座ったまま動けなかった。 見事な谷落とし。 コーチは見かねて 彼女を抱きかかえるようにして壇上から下ろした。 号泣する彼女。 会場から「詩、詩」のコールと拍手がわきあがった。 いままでこんなに悔しがる姿を テレビの実況で見たことがなかった。 勝負に集中する選手の気持ちが痛いほど分った。 しかし兄の一二三が優勝したときの感激の泣き笑顔を見て ホッと安心した。 相手のケルディヨロワも詩を思いやって静かに退場し、 この後、結局優勝した。